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設  立  趣  旨  書
1.趣旨

 わが国周辺の海域は、海流や地形条件に恵まれ、森・川・海の連環の中で滋養溢れる陸水の恩恵を受け、生物多様性が極めて高く、生息する海洋生物は、世界に生息する海洋生物種の約14%にあたる33,629種に及ぶといわれている。これら豊かな魚介類は、古来より、全国津々浦々の浜において、地域の人々の命を繋ぐ糧として利用され、また、季節に応じて移り変わる旬を楽しむ海の幸として、様々な調理法や魚食文化を発展させ、国民の食と暮らしを豊かなものにしてきた。
 
 しかしながら、近年のわが国漁業生産の凋落は著しく、19841,282tだった生産量は、1990年代に入って減少の一途を辿り、2002年以降は600t以下とピーク時の半分以下にまで落ち込んでしまった。近年の資源状況を見ても、資源評価が行われている52魚種・84系群のうち4割が低位水準にあるなど、依然として厳しい状況が続いている。これは、一部の資源で過剰漁獲が指摘されているものの、沿岸域の開発や干拓等による干潟・藻場の減少など海洋環境の悪化が主因であるといわれている。
 
 さらに、ここ数年来にわたり沿岸各地で顕在化してきたのは、栄養塩異変といわれる栄養塩類の枯渇現象や地球温暖化等に伴う水温上昇など、気象・海象条件の変化による影響である。すでにノリ養殖業など一部の漁業で多大なダメージを受けているが、これらの異変は、海洋における基礎生産を担う植物プランクトンの減少や、磯焼けと呼ばれる藻場の衰退現象などを引き起こしており、海洋生態系そのものを揺るがしかねない重大な事態である。
 
 201010月、名古屋市において生物多様性条約第10回世界締約国会議(COP10)が開催された。世界中の締約国や国際機関等が生物多様性を守り、自然と共生する世界を実現するための方策について議論を深め、海洋生物に関しては、「戦略計画20112020(愛知目標)」に2020年までに海洋保護区の面積を沿岸域及び海域の10%とすることが盛り込まれたほか、持続的な漁業に取り組む必要性に言及した「海洋・沿岸生物多様性に係る決定」が採択された。また、様々な立場と視点から多くのサイドイベントが開催され、「瀬戸内海生まれ、日本発」の新たな概念である“里海”についても多くの議論の場がもたれた。
 
 “里海”は、1998年に柳(1998a,b)によって提唱され、“人手が加わることによって、生物生産性と生物多様性が高くなった海”と定義されている。続いて2006年には「里海論」(柳,2006)が出版され、“里海”という言葉は、20076月の「21世紀環境立国戦略」、同年11月の「第三次生物多様性国家戦略」、さらには20083月の「海洋基本計画」等に盛り込まれた。2006年の世界閉鎖性海域環境保全会議(EMECS7)で“Sato-Umi”として紹介されて以来、国際的にも注目を浴び、その概念とともに世界に定着しつつあるが、この考え方は、日本古来の漁業制度に端を発する漁業者主導による沿岸管理手法に根ざしたものであり、社会生態系バランス(Socio-Ecological Balance)を持続的に保持するための優れたエコシステムアプローチ(Ecosystem Approach)の戦略といえよう。
 
 翻って、わが国の沿岸環境の現状はどうだろうか。沿岸各地において、漁業が生業として成り立っていた時代は、漁業者の主体的管理によって沿岸の海も健全であった。しかしながら、魚が捕れなくなって、1993年に32.5万人であった漁業就業者は、2009年には21.2万人と2/3まで減少し、65歳以上の割合は18%から36%に増加した。漁業者数の減少とともに高齢化も急速に進み、漁業者だけでは、漁場である海の管理ができなくなってきている。江戸時代から現行漁業法まで脈々と受け継がれ、長きに亘って培われてきた「磯は地付き、沖は入会い」の精神に裏打ちされた漁業権制度を礎とした、世界的にも他に類を見ない漁業者による沿岸管理システムは今や崩壊しつつある。
 
 海は、人にとって無くてはならない、万人が共有する貴重な財産である。人は海とどう関わっていけば良いのかが、今、問われている。「里海」は、この難問を解決するのに非常に有効な切り口であり手法であるが、沿岸各地の実状は、漁業や海面利用の実態、海岸地形や後背地の土地利用形態、産業構造、文化や歴史的背景などによって様々であり、目指すべき姿も異なってくるため、それを現実のものとして実体化していくことは容易ではない。人間活動と沿岸環境の調和を実現するうえで、共通する最も重要な課題は、人にとって必要な食料である水産物を如何にして漁獲し続けることができるかである。それぞれの地域において、その海が本来有している特性や豊かさを再発掘し「里海」を実現するには、この課題を原点に置き、地域の漁業者を中心とした「民」を主役に据え、地方自治体を始め、産・学・官の多様な分野の研究者・技術者等の叡智を結集することが不可欠である。
 
 我々“里海づくり研究会議”は、漁業現場や関連業界、行政上の現実的な課題・問題の解決のため、個々のテーマに応じて様々な分野の研究者・技術者によるチームを編成し、学際的かつ業際的、実務的・実践的な調査研究体制を構築し、沿岸海域の修復・改善、あるいは適切な利用を通じて、学術と地域の経済や文化との融合を図り、沿岸環境と人間社会の共存に寄与するため、「里海づくり」を効率的に推進できる組織づくりを目指すものである。

 事業を進めるにあたっては、具体的な活動として、調査研究のための資金やフィールドの確保、国や県・市など地方自治体との連携体制の構築、漁業関係者や地元住民等ステークホルダーとの調整などの必要性が生ずるため、特定非営利活動法人として、組織の姿と社会的立場を明確にすることが望ましい。

2.設立に至るまでの経緯

 沿岸海域における生態系、生物生産のメカニズムや海と人との関わりの中で生ずる様々な事象については、森・川・海を通じた物質循環をベースとして、複合的な要因が複雑に絡み合っており、あるひとつの現象の解明でさえ物理化学的、生物学的、あるいは人文社会学的な知見・知識の集約と、多岐に亘る分野の総合的な解析・評価が求められる。ましてひとつの目的意識をもって、これらの事象を取り扱うには、目的を共有した分野横断的な研究者組織が不可欠である。
 
 本会議を設立しようとするメンバ−は、従来から、岡山県において下表に掲げた調査研究など多くの業績を積み重ねてきたが、これまでの経験のなかで、地域の特性や個々のテ−マに応じて様々な分野の研究者・技術者による学際的、業際的な調査研究体制の必要性を痛感している。そこで、漁業現場や行政上の現実的な課題・問題の解決のため、必要に応じて広く人材を求め、現代社会のニ−ズに即した社会的に実効性のある戦略研究、実務的・実践的な調査研究体制を構築することができる組織づくりを目指し、設立するものである。

1990年 倉敷市大畠地先アマモ場環境調査
2000年 海砂採取環境影響調査
1994〜2001年 アマモ場造成技術指針の策定
2004年 カキ殻の有効利用に係るガイドラインの策定
2009〜2011年 カキなど二枚貝の貝殻を利用した総合的な底質改良技術開発
2010年〜 沿岸海域の栄養塩管理技術の開発
2011年〜 児島湾奥部の環境改善と栄養塩の有効活用技術の開発
参考文献

水産庁(2011):平成22年度水産白書(平成23527日公表)
柳哲雄(1998a):内湾における土木事業と環境保全.土木学会誌,83-11,32-33.
柳哲雄(1998b):沿岸海域の「里海」化.水環境学会誌,21,703.
柳哲雄(2006):里海論,恒星社厚生閣,102p.

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